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長い間、男性のお客様がおらず、女学園のようだった“ももたろう”ですが、12月より1人の男性が入って下さいました。そして2月より男性スタッフが勤務しています。詩吟のボランティアをして下さっている方も男性です。少人数でも男性が入ると、空気が変わるのが分かります。3月26日(火)、恒例の誕生日会を夜間に行います。

一人は、孤独か

 生まれは東京淀橋区戸塚、今の新宿区。「男っぽい」とよく言われるのは、4人兄弟のうち、上3人が兄だからだろうか。小学校卒業後、東洋高等女学校に進学した。当時「女の子は早く結婚し、子供を産むべき」という風潮があり、親から和裁と洋裁を習わされた。当時から社会に出て仕事がしたかった私は、親の目を盗み内緒で和文タイプライターを習った。偶然、和栽教室で知り合った方が厚生省の関係者だったため、国家試験を受ける事も無く、簡単なテストと面接でタイプピストとして厚生省に就職。全員男性の職場で、女性は一人。医師と共にタイプライターで文書を作成する仕事をした。仕事にどこか物足りなさを感じていたこともあり、仕事が終わってからダンス教室に通った。当時社交ダンスの全盛期で、たまたまダンスパートナーとなった同年齢の男性と練習を重ね、大会にもよく出場した。大会に出るにはペアでたくさん練習する必要があるため、自然と親しくなり、5~6年の交際期間を経て結婚。子供は男の子2人で、出産後も保育園に通わせながら仕事を続けた。父や職場の同僚からは「子どもがいるのに仕事をするなんて」と、口に出して言われたりもした。母からは「不良になる」とも言われたが、子供達を信じて好きにさせた結果、まっすぐ立派に育ってくれた。
 20年近く厚生省に勤めた後、『日本標準』というドリルなどの教材を作る会社に転職し、編集部で色々なことを企画・提案した。ここは厚生省と違って仕事が躍動いていたし、何か出来上がる達成感もあった。男性が中心の職場で、優秀な人から多く刺激を受けながら、55歳の定年まで仕事をした。その後、雇われ店長として三軒茶屋で9坪のブティックを始めた。少々高めの女性物を扱う店で、殆ど一人で店番をしていた。辺鄙なところにも関わらず、お客さんが絶えずに洋服もよく売れた。時々見に来る社長も驚いたほどだ。私は“ゴマすり” は嫌いだし、「買ってくれ」とは決して言わなかった。ただ、来てくれたお客さんが世間話を楽しんで貰えるよう、お客さんの事を覚え、人によって話題や接し方を変えるな工夫をしていた。男性客も多かったが、男性はさっぱりしていて接しやすい。女性の方が感情的な分、難しい点も多い。それにしても良く売れたため、社長から「何か秘密があるのでは」と探りを入れてきたほどだ。
 60歳を過ぎた頃、エステの世界に入った。美容に対して興味があったのですぐ馴染めた。研修や試験も沢山あり大変だったが、自分の努力がすぐに成果として表れるのは嬉しく、やりがいが感じられた。しかし、典型的な女性の職場。年長者でありながら成績が良かったため、嫌がらせや嫉妬も多く、嫌なことも多かった。陰口や愚痴は大嫌いだからこそ、辛い気持は自分の心の中で処理し、頑張っている証拠と思って努力を続けた。努力の甲斐があり、社長賞を貰うまでになると周囲の目は変わっていった。元から競争心は全くないし、若い子の多い職場。年上だからと威張るような事は決して言わず、皆とレベルを合わせたため上手くいった。仕事は引退したが、当時のお客さんとは今でも交流がある。
 現在89歳。主人は62歳で亡くなり、以後27年間一人で生活している。長男一家は歩いて15分の所に住んでいて、よく家に来ては面倒を見てくれる。お嫁さんも仲良くしてくれ、テレビで見る“嫁姑問題” はいまいちピンとこない。孫たちも時々彼女を連れて来てくれ、若い世代との交流も気持が若返るようで嬉しい。他の方から「一人だと寂しいでしょ?」と言われるが、どうして寂しいのかわからないし、寂しいと思った事が無い。「何事も一人で仕上げるもの」という意識が強いのかもしれない。同居を誘ってくれた息子からも、「人に頼らないよね」と言われている。
 人に携わる事や、働くことは好き。仕事に後悔や未練は無く、周りが満足してくれたのであれば、それでいい。でも実は、人の下で働くのも、人前で話すのも苦手。ブティックでの仕事は楽しかったが、人付き合いも本当は苦手。特に同性・同年齢の人たちが苦手だった。今、週3日通っている“ももたろう”は、一人を除いて全員女性で年齢も似たようなもの。今では、不思議と同世代の人たちと話をしている時間が、とっても幸せに感じられる。皆で行う輪投げなどの活動も楽しいし、最近男性の職員が入ってくれて心強く、ほっとする。今一番の心配は、夜に喘息が出て胸が苦しくなると。次の日はデイをお休みするのが残念。この生活がいつまでも続くことを願っている。